行事の記録(過去開催分)


平成29年度(2017年度)

教学院研究会(東部)

講師・講題
「『三縁山志』の研究 ―巻九・巻十・巻十一「列祖高徳」、巻八「法系伝由」を中心に―」
青木 篤史 氏
≪概要≫
 文政二年(1819)に摂門が著した、増上寺の檀林志である『三縁山志』は、江戸時代の檀林修学の仕組み、法制をはじめ、増上寺の塔頭寺院の由来や増上寺の歴代住職、学寮の法系等が詳細に書かれている。本発表では、『三縁山志』の中でも、特に増上寺の歴代住持の略伝が書かれている「列祖高徳」と、学寮の法系・所在が書かれている「法系伝由」の2つを取り上げ、増上寺の住持がどのような経歴を経て任命されていたのか、増上寺の学寮がどこに多く存在していたかを考察し発表したい。
「唐代初期仏教における五姓各別説の受容 ―『群疑論』を中心に―」
長尾 光恵 氏
≪概要≫
 唐代初期の中国では六四五年の玄奘の帰朝と新訳経論の訳出に端を発し、新訳経論に説示される種姓差別説の受容の是非をめぐる論争が巻き起こった。その種姓差別説は五つの種姓を数えることから五姓各別説と呼称され、その特徴は定姓二乗及び無姓有情の不成仏を主張することにある。この論争が基などの活躍により最も激化した時代に、懐感は『群疑論』を著し浄土教を宣揚している。本発表では『群疑論』所説の衆生論を考察する中で、懐感が五姓各別説にどのように対応したのかを論じる。

 

教学院研究会(西部)

講師・講題
「『為盛発心因縁集』に見られる法然思想について」
大久保慶子氏
≪概要≫
 室町時代から江戸時代初期にかけて成立した「お伽草子」の一種である『為盛発心因縁集』は、現存する写本から天正十一年(一五八三)以前には成立していたとされており、津戸三郎為守が法然上人に種々の疑問を尋ね、子細な教えを受けていることから、談義の場で用いるためにつくられ、流布した物語として捉えられているが、この津戸と法然上人の問答については、内容に関する考察も含め、これまでに十分な議論がなされていない。そこで本発表では、『為盛発心因縁集』における一部の問答の内容について検討しつつ、法然上人の消息類などと比較することによって、中世の物語の中で新たにつくり出された法然思想について考察する。
「明遍と蓮華谷聖の浄土教-聖仏教の展開-」
伊藤茂樹氏
≪概要≫
 中世は、浄土聖の活動が盛んであった。聖は、特定の寺院に居住せずに、著名な霊験所を廻り、民衆に仏の教えを説き、勧進や社会活動にも従事した。高野聖はその代表である。明遍は、光明山寺から高野山に再遁世し、蓮華谷に居住して聖を統括した。明遍と蓮華谷聖には、浄土教信仰が存在する。本発表では同時代に生きた重源や法然の関連も視野に入れつつ、鎌倉時代の高野聖の存在を明らかにしたい。

 

教学院研究会(西部)

講題・講師
「中国近世通俗文学に見られる仏教の受容について ~元・明代の作品を中心に~」
林 雅清 先生
≪概要≫中国の近世期に盛んに創作された小説や戯曲等の通俗文学作品には、僧侶や寺院、仏事の様子等が多数描かれている。また、仏教語や仏教的概念を反映した表現も散見される。これらを当時の文人ないし庶民の共通認識に基づく描写と解釈して分析すれば、当時の人々の仏教に対する理解や受容の一端が見えてくるのではなかろうか。本報告では、『水滸伝』や短篇白話小説、元曲(元雑劇)等の文学作品に描かれた仏教について検証する。
「法然法語研究の方法と課題」
川内教彰 先生
≪概要≫近年、我々が経験している「この世」(=顕の世界)の裏側に「冥」と呼ばれる世界があり、「冥」・「顕」の重層的な世界観を中世仏教研究の視座に据えようする試みがある。本発表は、こうした方法論により、日本仏教における説話の役割を検証しつつ、信心の世界に広く浸透していた業報輪廻思想が、天台本覚思想や悪人往生を真っ向から否定する論理であり、さらには法然上人の本願念仏思想にも懐疑の目を向ける思想であったのではないかということ、法然上人の三昧発得や善導との夢中対面も、まさに「冥」の世界からの作用の顕現であり、それ故、非常に大きな意味を有していたのではないかということについて、試論を展開したい。
「廬山寺本研究の現状と課題」
 春本 龍彬 氏 (大正大学大学院博士後期課程)
 法然上人の主著である『選択本願念仏集』には「往生院本」、「延応版」、「義山版」などといった数多くの諸本が現存しているが、京都市上京区、浄土宗大本山清浄華院に隣接する天台宗の寺院、廬山寺には建久九年(一一九八)、法然上人が六六歳前後の時に初めて撰述した『選択本願念仏集』と考えられる古鈔本が伝承されている。
 今回は未だに謎が多い「廬山寺本」を取り上げ、「廬山寺本」研究の現状とその課題について述べてみたい。
「『茶店問答』と『茶店問答弁訛』について
 ―江戸期における浄土宗・真宗の論争に関する一考察―」
星 俊明 氏 (大正大学大学院博士後期課程)
 浄土宗の普済道人の『茶店問答弁訛』により激しい批判を受けることとなった。
従来、これは江戸期における「浄土宗と真宗の論争」の一つとして理解されてきているが、はたして本当にそうなのだろうか。
 本発表では両書の考察を行い、新たな視座を検討したい。